「Web時代のGIS技術」勉強会

趣旨

Google Maps,Google Earthが発表され,Tim O'Reilly が Web 2.0 の概念を発表したのが2005年.Twitter,Facebookによるソーシャルグラフのプラットフォーム化などの進行などもあり,今やWebは,情報だけでなく人やモノの繋がりまでもがそこに展開するユニバーサルプラットフォームとなりはじめている.技術の面においても,Webは分散コンピューティング全般を規定する技術となりつつある.Google,Amazon,Salesforceなどによるクラウドコンピューティングの推進に代表されるように,あらゆる情報の蓄積や計算処理がWebを通して「あちら側」で行われるようになった.APIを通じたWebサービス同士の連携や融合も当たり前となった.ユーザ側においては,PCのような万能の端末だけでなく,iPhoneやiPadのような端末が普及しはじめている.そこでは,計算能力よりも「どこでも」「直感的に」使えるといった利便性や表現力に重きが置かれるようになっている.Web技術は,もはやホームページのための技術ではなく,あらゆる情報システムの基盤を再編成する技術となっている.

あらゆるコンピューティングのプラットフォームとして存在を増してきたWebは,地理情報システム(GIS)のあり方にも根本的な変化を迫っている.地図はこれまでもWebにおける重要なコンテンツであったが,主流のGISとは一線を画していた.GISは土木やマーケティング,行政などの分野を対象としたデスクトップアプリケーションやエンタープライズ向けのデータベースシステムを中心に構成され,Webに対応するとしても末端に貧弱なViewerとしてひっそりと接続されるだけだった.しかし本来,少なくない情報は,本質的に場所に深く関わりを持っている.Webが実世界の人やモノを取り込みはじめるのと呼応するように,近年急速に位置情報を利用したサービスが注目され,GISに由来を持たない空間情報技術が急速に広まっている.こうした中,Webのプラットフォーム性とGISで培われた高度な空間分析,視覚化技術との融合は,GISのシステムアーキテクチャを一新し,その応用領域を一気に拡大させるだろう.

この勉強会は,主に技術の観点からWeb時代のGIS技術について議論を深め,新しいGISの姿を描き出すことを目的とする.Web-GISに関するTwitterでの議論を下敷きに,GISの新しい使い方や,GISの未来を切り開く技術について発表やパネルディスカッションなどを通して考えを深めてゆきたい.現在はまだ,Web GISのとらえ方自体にも背景や専門分野によって大きな違いがある.しかし異なる背景を持つ者同士が集い議論することこそ,より多角的な視点に基づいた,未来を切り開く技術を作り出す原動力になると確信している.

Webへの親和のためにGISにもたらされるだろう技術的要素とは,例えば以下のようなものが考えられる.

単一の名前空間:あらゆる情報や処理方法などGISの構成要素それぞれは,単一の書式に基づき人が理解できるURLとして表現される.

発信と受信の双方向性:システムを利用するだけでなく,情報の発信も対等に行うことが可能になる.閲覧履歴情報なども解析されてシステムへの非明示的な入力となる.

緩やかなネットワーク:データのありか,処理の計算装置,ユーザの端末は分散し,必要に応じてゆるやかにネットワークを再構成しながらサービスを実現する.

インタラクティビティ:ユーザの意図は直感的な操作によって表現され,仮に大量のデータに対する操作であってもその結果が即座にフィードバックされる.

シンプルで標準的な情報形式:情報や知恵はメタデータを含めて特定のベンダや処理系に依存しない形式で記述され,ネットワークで簡単に交換される.

今想像できる範囲ではあるが,これらの技術的要素を備え,Webに浸透したGISは以下のような可能性を切り開くだろう.

リアルタイムに事象をつなぐ

現実空間での事象はほぼリアルタイムに情報化され空間情報として流通する.自然現象や人の活動,社会的な現象など様々な今まさに起こっていることがリアルタイムにWebへの入力となる.その入力に基づく知識はさらにリアルタイムに人の空間的な振る舞いに影響を与え,再び空間情報にフィードバックされる.こうした時空間軸を通じた情報サイクルが極大化してゆくだろう.

時空間に関わる知恵を交換する

GISが扱うものは,本来地図に限らず広く時空間に関わる知識である.地図の見方や探し方,データ解析の結果やデータの処理方法,地図への操作履歴など,人が時空間情報に接する際の様々な側面からの知識や知恵が,Webの上で形式化されデータ化され,それ自体が分析対象となったり,交換されたりするだろう.

人やその経験をつなぐ

これまで空間情報は,人の固有性が排除された情報がほとんどであった.実際には,多くの空間情報は特定の意図によって見出され整理されたものであるにも関わらず,そうした側面にはあまり光が当てられてこなかった.WebとGISの融合は,個人の経験としての空間と空間情報との断絶を繋ぎ,広く空間に関する知識や情報をその由来や意図などとともに流通させることを可能にするだろう.

Webの発展は情報の流通をますます加速し,地球規模での知識の獲得や創造活動をかつて無いスケールとスピードで可能にしている.本勉強会がWebとGISとの融合に貢献し,新しい地理情報のあり方を生み出す一助になることを希望する.

2010年6月1日
伊藤昌毅